まだ知らぬ、日本を訪ねて

趣味の日本庭園や近代建築の紹介ブログです。

みなと元町駅


撮影:2013.04.28

建築情報

名称:みなと元町
旧称:第一銀行 神戸支店
旧称:大林組 神戸支店
設計:辰野金吾
竣工:1908年
備考:近畿の駅百選選定駅

蘇る、栄町通の黄金の日々

 神戸市営地下鉄・海岸線。神戸では比較的新しいこの路線に「みなと元町」という駅があります。全国でみられる一般的な地下鉄の駅です。しかし、この駅を下車して地上に出て振り返ると、自らが出てきた出口が堂々たる赤煉瓦の近代建築に驚きます。遠くから見ると、あたかも「東京駅」のミニチュア版のよう。そう、これは辰野金吾博士による設計の建築なのです。一方で、この建築の裏側を見ると単なる駐車場であり、赤煉瓦の近代建築は2面の壁面でしかないことに驚きます。

撮影:2013.04.28
 「がらんどう」にもなれていないこの建築は、神戸・栄町通の栄光の日々と2度にわたる悲劇的な災難を伝える唯一無二の存在なのです。

戦災、そして震災を乗り越えた先に見えたもの


撮影:2007.09.05
 神戸・栄町通。ここはかつて、「東洋のウォール街」と形容された金融街であり、神戸でも旧居留地、新港地区、北野異人館街と並び、名建築が軒を連ねていました。その中でもこの建築は神戸の中では数少ない赤レンガ建築であり、異彩を放っていました。しかし、この建築は2度による災難を蒙ることになります。
 まずは第二次世界大戦での米軍による無差別爆撃です。神戸は当時「五大都市」の一つであり、日本最大の港湾施設であった神戸港、そして日本有数の造船所が立ち並ぶ軍事上重要な拠点でした。しかし、それまで米軍は軍事施設や軍需工場への精密爆撃を実施していましたが、方針を転換、各都市への無差別爆撃を実行していきます。結果、1945年の3月より始まった米軍による無差別爆撃により神戸市は壊滅状態となります。この建築も空襲の被害から逃れられず、外観を特徴づけていた非対称の屋根や室内が焼失してしまいました。しかし、外壁は残存、改修を施したうえで戦後も使用され続けます。
 次の災難は平和な時代での悲劇でした。1995年1月17日、神戸港が絶頂期を迎えていた時代、神戸に突如として激震が襲います。後に「阪神・淡路大震災」と呼ばれるようになるこの震災で、多くの近代建築が被災し解体を余儀なくされます。当建築も例外ではなく、被害の大きさから復旧困難と言われ、全面取壊しも検討されました。しかし、震災により名建築が一斉に消えてしまった栄町通で、往時を忍ばせるものはほとんど無くなってしまいました。そこで、神戸市、まちづくり協議会、建物所有者の大林組が協議を行い、歴史的景観の保全を図るため2面の壁面を残し、地下鉄駅の出入口として新たな役割を担うようにしたのです。
 壊滅的な被害を2度にわたり受けたこの建築は、どんな形であっても、たとえ大事なものを失ってでも、立ち上がり、前へ進む、そうすれば、自ずと新たな大事なものが付いてくる、不屈の精神の大切さを教えてくれます。

神戸における「辰野式フリー・クラシック」の銀行建築

 震災前に書かれた『神戸の近代洋風建築』では、次のような記述がなされています。 

 建物は煉瓦の地に白い御影石で縁取るように構成していく、いわゆる「フリー・クラシック」と呼ばれる辰野流デザインの特徴がうかがえる。特に栄町通りに面したルスチカ仕上げの玄関ポーチ柱、窓まわりなどの彫刻的な石材の扱いがユニークである。戦災により、屋根、室内が焼失、建物のそれぞれのコーナー部分を特徴づけていた非対称の形状を持つ屋根が取り去られた他、二階の丸窓がアーチ窓に改修されている。当初の外観が持っていた賑やかな印象はやや薄れたものの、洋風の建築が多い神戸市内でも煉瓦の外観を持つ建物は少なく、貴重なランドマークとなっている。

 神戸において、この建築は単なる赤煉瓦の建築ではありません。かつての栄光の日々を思い起こさせ、戦災、震災という悲劇的な災難を乗り越えた、神戸という街の隠れた象徴ともいえるのです。

参考文献

神戸市教育委員会・神戸市近代洋風建築研究会(1990.8)『神戸の近代洋風建築』
神戸市行財政局 行政監察部 庶務課「神戸 災害と戦災 史料館|神戸の戦災」http://www.city.kobe.lg.jp/safety/disaster/war/war01.html(2013.10.26アクセス)
大林組大林組旧神戸支店|実績の紹介|大林組http://www.obayashi.co.jp/works/work_1310(2013.10.26アクセス)
日本建設業連合会「旧大林組神戸支店外壁保存 - 日本建設業連合会http://www.nikkenren.com/kenchiku/sb/pdf/206/03-025.pdf(2013.10.26アクセス)