まだ知らぬ、日本を訪ねて

趣味の日本庭園や近代建築の紹介ブログです。

国立国会図書館 国際子ども図書館



撮影:2013.05.03

建築情報

名称:国立国会図書館 国際子ども図書館
旧称:帝国図書館
旧称:国立国会図書館支部上野図書館
用途:図書館
設計:久留正道、真水英夫、岡田時太郎
竣工:1906年
備考:東京都選定歴史的建造物

真理がわれらを自由にする

 東京・永田町にある国立国会図書館をご存知でしょうか。そこは、日本の知のほぼ全てが集まり、そして国民はそれを自由に手にすることができる施設です。
 本の受取や返却を行う本館カウンターの上に、「真理がわれらを自由にする」という一文が掲載されています。人は、様々なものに拘束されています。その拘束を解放(=Liberty=自由)することができるのは「知」であること。ここを訪れる度に、学問の本質を思い出させてくれる一文です。
 さて、この国会図書館、本館と新館に分かれているのですが、そこをつなぐ廊下に建築模型が3つ置いてあります。一つが東京本館。もう一つが2002年、関西文化学術研究都市に開館した国立国会図書館関西館。そして3つめが上野にある国際子ども図書館です。「子ども図書館」という名前にギャップを感じさせる、豪華で華麗でありながら、どこか歪な形をした建築。この不思議な建築にどことなく興味を持ち、後日、上野に向かったのです。

未完に終わる「東洋一の図書館」

 現在、東京国立博物館東京芸術大学の間に存在する国際子ども図書館は、元々日本唯一の国立図書館として設立された「帝国図書館」として建設されました。当初、そのロの字型(日の字型の計画案もある)の壮大な建設計画は、「東洋一の図書館」の名に恥じない規模でした。しかし、時は日清戦争日露戦争戦間期。緊迫する極東情勢に対し、「帝国図書館」への予算は大幅に制限されてしまいます。
 日露戦争後の1906年、全体計画の約2割程度にあたる東側側面のみ建設、開館されました。そして、それから23年後の1929年に増築がなされ現在の規模となります。全体計画の内、いわばロの字の短辺のみが建設され、残りの大部分が未建設のままとなりました。
 その後、1947年に「帝国図書館」は「国立図書館」へと改称。1949年には国立国会図書館に統合され「国立国会図書館支部上野図書館」へ、2000年より「国際子ども図書館」として新たな役割を担うことになります。

明治末年のルネッサンス様式官庁建築の典型

 「国際子ども図書館事業記録集」によると、

 現存する旧帝国図書館の明治期および昭和期の建物を通じてその全体像を見ると、その骨格はいわゆるルネッサンス調の格式のある意匠をまとっている。その構成は奇をてらったものではなく、穏健な三層構成で、大オーダーで分割された壁面は、大きな開口部をもつが、その頂部のアーチは緩いセグメンタルアーチ(偏円アーチ)とし、その中心にスクロール(渦巻)をもったキーストーン(迫持石)を上げている。中間帯の腰壁の化粧板は銅板細工の精緻な唐草模様の意匠で、美術学校鋳金科の作という。また大オーダーの上部に取り付いたメダリオン(円形浮き彫)は、白丁場石の彫出し仕上げである。
 外壁は煉瓦化粧積みと白丁場石によって構成される。煉瓦の化粧積みは下部をイギリス積み、上部をフランス積みとする。

 明治末年の官庁建築の典型とされている帝国図書館の建築は、その価値故、東京都歴史的建造物にも指定されています。
 未完に終わった「東洋一の図書館」。しかし、帝国図書館建設に尽力した人々の志は確実に受け継がれ、現在の国立国会図書館へとつながっていくのです。

参考文献

国土交通省関東地方整備局営繕部(2002.3)『国際子ども図書館事業記録集』